12弦ベースの話

12弦ベース、Hamer の B12S について。



複弦楽器

1つのコースが2本以上の弦のセットになっているものを複弦といいます。現代のギター類は単弦(1コースに弦が1本だけ)の構成が主流ですが、ルネッサンス以前〜バロック(13世紀〜18世紀)くらいまで、リュートやギターに類する撥弦楽器は、複弦、もしくは複弦と単弦の組み合わせが多かったようです。


複弦は音量を稼いだり、響きやサスティーンに変化を与える目的で設けられます。19世紀以降のギターは、大型化したりエレキ化することによって音量を稼いだり音に変化を加えられるようになり、単弦が主流となったのでしょう。


複弦は通常、ペアコースといい2本1組みが一般的です。同じ音程の弦が2本の場合と、オクターブずらした同音の2本の場合があります、エレクトリックギターでは12弦ギターや8弦ベースに例があります。1コースに3ペアの複弦もマンドリンやギター類に昔から例があります。ピアノの中域〜高音域も3本弦になっていますね。



この12弦ベースは4弦ベースの各弦に、1オクターブ高い弦が2本づつ付いて3本セットになっています。1つのコースに弦が3本、それが4コースあるので合計で12弦です。12本の各弦を弾き分けるわけではなく、通常は1コースの3本をいっぺんに撥きます。ですから弾く弦の構成としてはウクレレやエレキベースと同じです。




単弦 4コース

複弦 3ペア4コース(合計12弦)



12弦ベースの原型

12弦ベースはハグストロムの8弦ベース(後述)と、もう一つ元になった楽器があります。



12弦ベースを最初に作製したのはHamer Guitarsのジョル・ダンジグという人ですが、Hamer社は古いTiple(ティプル/ティープレ)という楽器に着想を得て3x4の構成になったと公表しています。


Tipleという名称の楽器はラテンアメリカにいくつかあるようですが、ここではコロンビアのティープレ / Tiple Corombiano を指しているようです。これはコロンビアの国民的楽器だそうです。


Tiple Corombiano 


Youtubeで「Tiple」と検索するとアメリカのMartin製のウクレレのような複弦楽器(コロンビアのTipleが元になった別の楽器)と、コロンビアのTipleが出てきます。TikTocで調べるとコロンビアの人のTiple演奏動画がかなりたくさん上がっていて、当地では本当に一般的な楽器のようです。


3ペアの中央の弦が1オクターブ低い構成になっており、12弦ベースはこの楽器をほとんどそのまま低音化(大型化)、エレキ化した感じです。



コロンビア・ティープレは16世紀にスペイン人が持ち込んだビウエラを元に作られたとされています。調べるとラテンアメリカにはアンデスのチャランゴ、メキシコのメキシカン・ビウエラなど、スペインのビウエラを祖とする類似のギター類が遍在しており、経緯はハワイのウクレレ(ポルトガルのマシェーテという楽器が元)ともよく似ています。


当時スペインには貴族が使っていた6コース複弦のビウエラと庶民が弾いていた4コース複弦のルネサンス・ギターがあったと書かれているのをよく見ますが、ラテンアメリカのギター類は4〜5コースが多く、どちらかというと庶民的楽器の子孫なのかもしれません。



ラテンアメリカのギター類は今でも弦が4〜5コース、ボディが小さくスケール(弦長)が短い、複弦の楽器が多い、などルネサンスの古楽器の特徴を残しているように見えます。現在のコロンビアのティープレは19世紀に今の形になったそうで、19〜20世紀のギターの影響を受けた作りになっていますが、それでも現代のギターに比べると小型です。


現代のクラシックギターやエレクトリックギターは、バロックギター〜19世紀ギターの子孫ですが、世界にはより古い楽器の直系子孫も色々とあるんですね。


B12Sの誕生と製造

1960年代にはすでに8弦エレクトリックベースがありました。ロックバンドのギターとベースの役割配分に難を感じていたエリック・クラッコウという人が、12弦ギターから着想を得て8弦ベースを試作したのが最初だそうです。このクラッコウのアイデアをもとに、スウェーデンのハグストロム社からH8というモデルが生産されていました。この楽器は昔から有名で、近年、復刻もされていました。



Cheap Trickのトム・ピーターソンが、このH8のチューニングの不安定さなどの不満についてHamerのダンジグに相談し、上記のTipleを参考にして1970年代に10弦と12弦のベースが作られたそうです。10弦の方はコロンビアのティープレではなく、アメリカのMartin社のTiple(8弦ウクレレとコロンビア・ティープレをもとに作られた楽器)を参考にした可能性があります。

この辺の話はこちらに詳しく書かれています。 → 12stringbass.net/12弦ベースの起源 



この最初に作られた12弦ベースは各コースに対して一つづつ独立したピックアップが付けられた出力構造(クワドロフォニック)になっており、「クワッド」ベースという名前でした。


これが一般向けに普通のピックアップに変更され、1978年〜2001年まで製造されていたのが B12S です。Sはショートスケールを意味しており、30.5inchスケールです。のちにロングスケールのモデルも2種類作られています。B12A、B12Lです。



Hamerはいわゆるブティックブランドの元祖ですが、12弦ベースはオーダー品としてではなく量産品としてもかなり長い期間製造されていますので、そこそこの台数があると思います。日本の中古楽器市場でも数年に1回くらい売りに出ているのを見ます。B12Sはカラーリングバリエーションが非常に多い楽器ですので好みの色の出物を狙うのは難しいと思いますが、狙っていれば今でも入手は可能です。



Hamer 12弦のバリエーション

ショートスケールのB12SはGibson 50s EB-0/Les Paul Jr DCのシェイプです。

ロングスケールの B12Aはアコースティック風のボディシェイプで、12弦ベースというとこれを思い浮かべる人も多いかもしれません。これも中古市場でまれに出ることがあります。



同じくロングスケールのB12LはHamerのChaparralというフェンダー系のシェイプです。このB12Lとほとんど同じ見た目のCH-12(Chaparral-12)という廉価版モデルがあります。これは韓国製、中国製、インドネシア製です。韓国製が最も品質が良いそうです。B12Aよりもこちらの方が中古で入手できる機会は多いかもしれません。


B12Sと同じ形でミディアムスケールのB12Mも存在しますがカスタムオーダー製のみのようです。他、ホロウボディのもの、エクスプローラーシェイプなど、オーダーによるヴァリエーションが色々あるようですが、日本では出回っているのは見たことがありません。海外では売りに出されていることがたまにあります。


B12Sに関して、価格は1990年頃に定価40万円くらいで、日本にもカタログがありました。中古価格は10〜20年前で15万円くらいが相場でしたが、2024年現在ではその倍くらいになっている可能性があります。



Hamer以外の12弦ベース

8弦ベースが生産されてれているのをほとんど見ないのに対し、12弦は意外と常にどこかのメーカーで生産されています。最近は SchecterDeanMusicvox で12弦が作られています。

一時、Waterstoneの12弦をよく目にしましたが、最近は販売されていないようです。

チューニングの安定性

楽器を見るなり「チューニングが大変そう」と言われる楽器ですが、意外とそうでもなく、B12Sは一回チューニングするとなかなか狂いません。非常に安定しています。弦が多くてなかなか合わないといったこともありません。


もともとハグストロムの不安定性を解消するために作られた時点で、そのように意図して製造されているのかもしれません。とにかくネックとチューニングの安定性は良くネックの状態にもそれほど気を使いません。私のB12Sは2本とも90年代のもので、トラスロッドは2本入っています。初期にはロッドは1本だけだったようです。


これはあくまでB12Sに関しての話です。他のメーカーの12弦ベースは使ったことがないので全く分かりません。またロングスケールのB12A、B12Lについても触ったことがなく不明です。


ちなみにB12Sに限ってはギター弦がとどくので、高額な12弦ベース用セット弦を買う必要がありません。


奏法

多少ハードではありますが、ベースとして単音で弾くだけなら4弦ベースを弾くのと同様に弾けます。ベースを弾ける人なら少し弾きこめば慣れます。


私はベースとしてではなく独奏楽器として使っています。



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